不確実な時代に最も安全なキャリアの選択肢とは
僕は基本的に、会社や組織のことを信用していない。
これまで30人規模のベンチャーから、1000人規模の上場企業までを経験してきた。それには外資系企業も含まれ、雇用形態も、正社員、契約社員、アルバイトと全て経験し、役職も、フォトグラファー、マネージャー、ディレクター、役職なしの平社員と、クリエイティブ職を中心に、部下を抱えてのマネジメント業務も行っていた。
こんなに多くの状況を経験している人間は少数派であるという自覚がある。それは僕がそのような状況を務め上げる能力が無かったから、と言うこともできるが、そのような被雇用者側のゲームから降りたことも意味する。
勤めていた会社が急に業績が悪くなり、予定していた賞与や年俸をもらえなかったこともあるし、在籍中に上場廃止となり分社になったこともあった。特に、小さく、ワンマン経営の会社ほど、社長の匙加減で全てが決められてしまう。会社にお世話になった部分もかなりあるので、安易に書けないのだが、ここでは僕が実際に勤めた会社ということではなく、一般的な「会社」という意味において、つまり法人は個人格とは区別されて人間ではないという意味で、信用していない。
日本ではいま、中小企業の経営者の高齢化がかなり進んでいる。2025年版中小企業白書では、中小企業の経営者は60歳以上が過半数を占めるとされ、個人企業では約4割が、自分の代で廃業を考えている。さらに、国が運営する公的な事業承継・引継ぎ支援センターでは、第三者承継(M&A)の成約件数が2024年度に過去最高を更新した。
つまり、これからの日本では、会社が静かに消えていく一方で、引き継がれるべき仕事、顧客、技術、地域の需要が大量に残るということだ。問題は悲観材料であると同時に、次の世代にとっては入口でもある。
信じて入社した会社も、10年後にはその波に飲み込まれているかもしれない。だとすれば僕のように「会社を信用しない」ということは、少しエクストリームであるにしても、「組織に守られる」という発想そのものを、今すぐ疑ってもよい頃合いではないか。
また、職業レベルでも問題がある。東京に出てきてからこれまで15年ほど、広告業界でフォトグラファーとして活動してきた。EC、雑誌、ウェブ媒体など、企業製品のためにあらゆる写真を撮ってきた中で、この10年間の変化はあまりにも大きすぎる。
ちょうどフォトグラファーのキャリアを始めた頃に、制作環境がデジタルへ移行し、納品フローや報酬に変化があった。デジタル領域が掲出・撮影の両面で拡大し、撮影単価は下がった。仕事の大小があるので一概に言えないが、ここ10年で平均的に一本40万円の仕事が、20万円くらいになった感覚だ。
さらに最近は、AIの台頭によって、クリエイティブ業界の構造そのものが、別の形態に置き換わろうとしている。フォトグラファーはいつしか、カメラオペレーターに成り下がったが、今回はそれどころではなく、フォトグラファーという職業そのものが成り立たなくなるパラダイムに突入している。
このような日本の社会状況、AI時代、そしてポストワークと呼ばれる時代に最も安全なキャリアの選択肢は、パーソナルブランドの構築だ。
これは自己顕示欲の話でも、インフルエンサーになれという話でもない。もっと現実的で、もっと地味な話だ。2,000人から20,000人に、あなたの活動や経験や思考が「知られている状態」を作ること。それだけでいい。その認知が、あらゆる局面で資産になる。その局面は、仕事、転職、独立、事業承継などだ。
ここで多くの人が立ち止まる。私にはブランドを作れるような特別なスキルがない、と。
ジル・サンダーというブランドがある。今ではトップメゾンとして、世界企業となり、全世界で高品質なワードローブを提供しているが、ココ・シャネルと同様に、ジルも人間だ。ジルはハンブルクのテキスタイル専門学校を卒業して、渡米し、カリフォルニア大学に留学した。留学中にニューヨークの出版社に就職して、女性誌のファッションジャーナリストとして活動した。その後、ハンブルクに戻り、自分の店を出す、という華々しくも、遠回りに思えるようなキャリアを歩んでいる。それは自分の美学や欲求に忠実であることの現れにも、個人的には見える。
彼女は最初からファッションデザイナーだったわけではなく、ブティック(セレクトショップのような服屋)を営んでいた。そこでは、世間に既にある洋服を、それも自分のお気に入りで、多くの人々に広めたい洋服を集めて売っていた。つまり、彼女は洋服のキュレーターだったと言える。
今でもキュレーション的な行為は、ブランド構築の基礎になる。スキルがなくても、自分の感性を軸に、何かを集めて提供できれば、それが自分のブランドになり得る。
具体的には、住んでいる地域の、商店を紹介するInstagramアカウントや、ウェブサイトを作ること。これもひとつのキュレーションだ。事業者が高齢者で、デジタルに弱く、販促を手伝って欲しいというお店は身近に沢山あるかもしれない。それに属する仕事としては、そのようなお店のアカウントの運用を代行すること。これも多く行われている。
道端に汚れた車があれば、数百円で洗車するサービスを始められる。だがこれは少しアメリカ的かもしれない。しかし、日本的ではないということは、ブルーオーシャンの可能性もあるということ。自動洗車機であっても、洗車が面倒だと思っているドライバーは多いはずだ。
色々考えたとしても、実際にそれを実行できるかどうか。この一点に、起業家的思考と従業員的思考の本質的な差がある。
従業員は問題を見たとき、「やり方を教えてほしい」と言うか、「自分には関係ない」と無視するかのどちらかだ。起業家は問題を見たとき、「これはチャンスだ」と考え、行動する。問題とは、やっかいなことに思えて、実は素晴らしいものだ。問題のあるところに必ず解決への需要があり、需要のあるところに必ずビジネスが生まれる。高齢経営者が抱える後継者問題も、まさにそうだ。若い世代にとって、これは絶好の事業承継の機会でもある。
ではパーソナルブランドを作るためにまず何をすべきか。
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